デイリースクラムが進捗報告会になる構造と、フォーマットを変えても戻ってしまう理由
デイリースクラムが、一人ずつ昨日やったことを述べていくだけの時間になっている。聞いているのはスクラムマスターだけで、終わったら全員が黙って解散する。
厄介なのは、質問の仕方を変えても数週間で元に戻ることです。この記事では、報告会に引き戻す力がどこから来ているのかを整理し、どの順序で手を入れれば戻りにくいのかを扱います。
そもそも「報告会になっている」とはどういう状態か
言葉の印象で判断すると打ち手を間違えます。次の3つが揃っているときに、その会は報告会として機能しています。
- 発言の宛先が特定の一人(スクラムマスター、リーダー、あるいはPO)に固定されている
- 話される内容が、これからの計画ではなく過去の作業ログである
- 会が終わったあとに、誰の今日の予定も変わっていない
3つ目が決定的です。デイリースクラムは、スプリントゴールに向けて今日の計画を調整するための会です。調整が一度も起きていないなら、形式が何であれ機能していません。
逆に言えば、順番に一人ずつ話す形式そのものは問題ではありません。一人ずつ話していても、途中で「それなら自分が先にやる」と予定が入れ替わるなら、その会は成立しています。形式を変えること自体は目的になりません。
質問を変えるだけでは戻る
最初に試されるのは、質問の差し替えです。「昨日やったこと」をやめて「スプリントゴールに近づいたか」に変える。これは正しい方向で、実際に最初の数回は会話が変わります。
それでも戻るのは、報告会という形式が、その場にいる誰かの必要を満たしているからです。満たされている必要が消えないまま形式だけを変えても、しばらくすると元の形に落ち着きます。
つまり、質問を変えて戻るチームは、失敗しているのではありません。その形式を必要としている力が残っていることが分かった、と考えるほうが正確です。次に見るべきはその力の正体です。
報告会に引き戻す3つの力
自分のチームでどれが働いているかを特定してください。打ち手が変わります。複数が同時に働いていることもよくあります。
1. 会の外に報告義務がある
スクラムマスターやリーダーが、上長や他部署に進捗を報告する義務を負っている場合です。デイリースクラムは、その材料を集める最も効率のよい場になります。
この力が働いているとき、進行役は無意識に報告を引き出す聞き方をします。悪意ではなく、必要だからです。ここに手を入れずに質問だけ変えると、進行役自身が元の聞き方に戻します。
見分け方は単純です。デイリースクラムのあと、その日の状況を誰かに伝えているかを確認してください。伝えているなら、この力が働いています。伝えている相手が自分の上長であるほど、力は強く働きます。
開発者やリーダーを兼任している場合は、事情が変わります。報告義務が他人から課されたものではなく、自分の職務の一部として残るためです。この場合は報告そのものをやめる相談ができないので、経路を変える打ち手より先に、会を分ける側の選択肢を検討することになります。
2. 誰も他人の作業に関われない
スプリントバックログが最初から個人に割り振られ、互いの作業に依存関係がない状態です。他人の進捗を聞いても自分の予定は変わりようがないため、報告するくらいしかやることが残りません。
この構造そのものはデイリースクラムで他の人の話を聞いていない理由で詳しく扱っています。ここで押さえたいのは、他の力と同時に働いているときの見分け方です。個人分担が原因なら、進行の形式を変えた直後だけは会話が増え、数日で元に戻ります。報告義務が原因なら、形式を変えても最初から会話が増えません。
3. 停滞を口に出せない
「昨日と同じところで止まっています」と言いにくい空気がある場合、発言は無難な作業ログに寄ります。進んだことだけを並べれば、報告としては成立するためです。
このとき会は表面上きれいに回ります。停滞が見えないので問題も出てきません。静かで短いデイリースクラムが、必ずしも健全とは限らないのはこのためです。
見分け方は、次の3回で「まだ終わっていません」という発言が一度でも出るかを数えることです。全員の発言が進んだ話だけで埋まるなら、この力が働いています。
順序を間違えない立て直し
3つの力のうち、1が働いている場合はそこから手を付けます。
報告の宛先を会の外に出す
上への報告が必要なら、それ自体は否定せずに、デイリースクラムとは別の手段に移します。ボードやチケットの状態をそのまま見てもらう、週次で別途まとめる、といった形です。
進行役が「この会で報告材料を集めなくてよい」状態になって初めて、聞き方が変わります。伝え方としては、報告をやめる話ではなく、報告の経路を変える相談として持っていくほうが通りやすくなります。
ただし、報告先が日次の粒度を求めていて、かつそれを変えられない立場であれば、この打ち手は使えません。その場合はデイリースクラムを報告の場と割り切り、調整のための短い時間を別に取るほうが現実的です。ひとつの会に二つの目的を持たせ続けるより、分けたほうが両方とも機能します。
話す単位を人から作業に変える
力2が主なら、進行の単位を人から作業に変えます。項目ごとに残りを確認していく進め方で、話題の主語が「私がやったこと」から「この項目に残っていること」に移ります。具体的な導入手順は別記事に譲ります。
ただし効くのは、同じ項目に複数人が関わっている場合です。1人1項目のままでは、進行の単位を変えても結果は変わりません。その場合は仕事の分け方から変えることになり、これも別記事で扱っています。
ここで強調したいのは順序です。力1を残したままこの変更を入れると、進行役が報告材料を必要としているため、数回で元の聞き方に戻されます。打ち手そのものより、先に報告の経路を外したかどうかが効きます。
停滞を先に自分から言う
力3が主なら、進行役の振る舞いを変えます。有効なのは、スクラムマスター自身が「自分はここで止まっている」と先に口に出すことです。
止まっていることを言ってよい場だと分かるまでには時間がかかります。一度言った人が問い詰められる場面が一回でもあると、元に戻ります。誰かが停滞を口にしたとき、その場で解決しようとせず「じゃあ後で見ましょう」と受け止めるだけにとどめてください。
場が変わったかどうかは、停滞を話した本人に確かめるのが確実です。その回のあとで「さっき言いにくくなかったですか」と個別に聞いてみてください。言いにくかったという答えが続くうちは、まだ変わっていません。答えが変わるまでに数スプリントかかることもあります。
効果の測り方と、やりすぎたときの副作用
立て直しが効いているかどうかは、雰囲気ではなく次の一点で判断できます。会のあとに予定が変わった人がいるかどうかです。週に何度か変わっていれば、その会は調整の場として動いています。
副作用として起きやすいものが2つあります。
ひとつは、報告の経路を外したまま、代わりの経路を作らないことです。デイリースクラムから報告材料を切り離しても、上長が知りたい情報は消えません。届かなくなった側から見ると、チームが情報を出さなくなったように見えます。経路を外すときは、代わりにどこを見てもらうかを同時に決めておきます。
もうひとつは、報告を悪者にしすぎることです。組織にとって進捗の共有は必要な機能で、それ自体は正当なものです。デイリースクラムから報告を切り離すのは、報告を否定するためではなく、別の目的を持つ会を混ぜないためだと説明できると、周囲の協力を得やすくなります。
明日からの一歩
まず、今日から3回、デイリースクラムのあとに予定が変わった人がいたかをその場で数えてください。ゼロが続くなら、質問を変える前に3つの力のどれが働いているかを特定します。
特に、自分自身が上への報告材料を集めていないかは確かめる価値があります。ここが残っていると、他の打ち手はほぼ効きません。