レトロスペクティブのマンネリは手法を変えても直らない。検査する対象を入れ替える3つの軸

スプリントレトロスペクティブで、毎回似たようなKeepとProblemが並ぶ。前回書いたものと今回書いたものがほとんど同じで、話し合っても新しい発見がない。進行役として次に何をすればいいか分からない、という状態は珍しくありません。

このとき最初に検討されるのは手法の変更です。KPTをやめてYWTやFun/Done/Learnにする、といった対応です。この記事では、手法を変えても数回で元に戻るのはなぜかを整理し、代わりに何を入れ替えれば持続するのかを扱います。

マンネリの正体は手法への飽きではない

毎回同じ意見しか出ないとき、実際に起きているのは検査する対象が固定されていることです。手法が古くなったわけではありません。

KPTを何回か回すと、チームは「この枠で語れること」を学習します。Keepにはうまくいったタスクを、Problemには進行上の詰まりを書く、という型が自然にできあがります。型ができると、毎回同じ場所だけを見に行くようになります。

見に行く場所が同じなら、見つかるものも同じです。問題が減ったわけではなく、同じ場所に残っている問題はもう全部拾い終えたという状態です。

ここを取り違えると打ち手を外します。ネタが出ないのは、チームが怠けているからでも、進行役の技量が足りないからでもありません。

手法を変えると一時的に効く理由

別の手法に変えると、実際に数回は新しい意見が出ます。これは手法そのものの力ではなく、問いの角度が変わったことで違う場所を見に行った結果です。

Fun/Done/Learnなら感情と学びに、YWTなら行動と気づきに視線が向きます。今まで見ていなかった場所なので、新しいものが見つかります。

そして数回でまた止まります。新しい手法にも型ができ、見に行く場所がまた固定されるためです。手法を変え続けるやり方は、この意味では間違っていません。ただ、変える対象を「手法」だと思っていると、手持ちの手法を使い切ったところで行き詰まります。

変えるべきなのは検査する対象であり、手法はその対象に合わせて選ぶものです。順序が逆になっているとネタ切れが繰り返されます。

検査する対象を入れ替える3つの軸

レトロスペクティブで検査できる対象は、大きく3つに分けられます。このうち実際に検査されるのは、1つ目に偏りがちです。

1. プロセス

作業の進め方、イベントの運営、ツールやルールの使い方です。KPTで自然に集まるのはほぼこの領域になります。

改善が具体的で実行しやすい反面、拾い尽くすのが早い領域でもあります。ここだけを回していると、回を重ねるごとに新しく出てくるものが減っていきます。

枯れたことに気づく目印は、出てくるProblemが毎回外部要因になることです。「割り込みが多かった」「仕様が遅れた」のように、自分たちの外側の話ばかりが並ぶなら、内側で拾えるものは残っていません。

2. 関係

メンバー同士のやりとり、意思決定の仕方、意見の出しやすさ、役割の重なりや空白です。会話の量ではなく、誰と誰の間で情報が止まっているかを見ます。

この領域はプロセスより語りにくく、そのぶん手つかずで残っていることが多い場所です。ただし安全に扱えないと表面的な話で終わります。

表面的にしないコツは、人ではなく情報の流れを対象にすることです。「誰の説明が分かりにくいか」を聞くと個人の評価になりますが、「どの情報が遅れて届いたか」なら経路の話になります。同じ問題を扱いながら、原因を人に寄せずに済みます。

3. 成果物と成果

作ったものが誰にどう使われたか、スプリントゴールが妥当だったか、完成の定義が現実に合っているかです。プロダクトの中身に踏み込む領域になります。

開発者だけで完結しないため敬遠されがちですが、スプリントの意味そのものを問い直せるのはここだけです。

この軸を選ぶスプリントは、プロダクトオーナーに同席を頼んでください。使われ方の情報を持っているのはPOであることが多く、いない場では推測だけの会話になります。同席が難しければ、事前に「直近で反応があった機能はどれか」を聞いておくと、使われ方を推測で埋める発言が減ります。

軸の切り替え方

3つの軸を毎回すべて見ようとすると、時間が足りずに全部が浅くなります。スプリントごとに軸を1つ決めて、そこだけを深く見る進め方をおすすめします。

進め方は次のとおりです。

  1. レトロスペクティブの冒頭で、今回の検査対象を宣言する(例:「今日は関係の話をします」)
  2. その軸に合う問いを2つか3つだけ用意する
  3. 出てきたものから、次のスプリントで試すことを1つ選ぶ

軸ごとの問いの例を挙げます。そのまま使えます。

問いの例
プロセス今スプリントで、一番待たされたのはどこですか
関係誰かに聞けば早く終わったのに、自分で抱えた作業はありましたか
成果物と成果作ったもののうち、誰が使うのか一番あいまいだったのはどれですか

軸を宣言することには副次的な効果もあります。「今日はプロセスの話はしません」と明示されると、いつもの型で語れなくなり、参加者が別の場所を探し始めます。

ローテーションの順序は、プロセス、関係、成果物と成果を順に回すのが基本形です。ただし関係の軸は、チームが編成されて間もない時期には早すぎます。互いの仕事ぶりがまだ見えていない段階で関係を検査すると、印象論の交換になりがちです。編成から数スプリントは、プロセスと成果物の2つで回してください。

ただし、この進め方は障害が起きた直後のスプリントには向きません。緊急に扱うべき出来事があるときは軸の話を脇に置き、その出来事を直接扱ってください。軸のローテーションは、平常時の枯渇を防ぐための仕組みです。

マンネリではなく諦めだった場合

ここまでの打ち手は、意見はあるが出す場所が固定されているチームに効きます。一方で、意見そのものが出てこない状態には効きません。

見分ける方法があります。レトロスペクティブの外で、雑談や個別の会話で不満が出ているかどうかを確認してください。場外で出ていて場内で出ないなら、それはマンネリではありません。出しても変わらないと学習した状態です。

この場合に手法や軸を変えると、逆効果になることがあります。新しい形式で意見を求められ、それでもまた何も変わらなければ、「やはり無駄だ」という学習が強化されるためです。

先に手を付けるのは、過去に決めて実行されなかったアクションの棚卸しです。実行されなかったものを1つ選び、それが実行されなかった理由をチームと確認します。理由を明らかにしたうえで、実行できる大きさまで小さくするか、正式にやめる判断をします。

**一度でも「決めたことが実際に変わった」経験が要ります。**その経験がないうちは、形式をどう工夫しても意見は戻りません。

明日からの一歩

次のレトロスペクティブの冒頭で、検査する軸を1つ宣言してみてください。プロセス以外を選ぶのがおすすめです。上の表の問いをそのまま使って構いません。

その前に確認することが1つあります。前回のレトロスペクティブで決めたアクションが実行されているかどうかです。実行されていないなら、軸を変える前にそちらを扱ってください。決めたことが実行されない理由はレトロで決めたアクションが実行されないのは、意志ではなく件数の問題ですで扱っています。